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探偵食堂 ~雑煮~
調査が終わり、依頼者に報告を終えたころ、俺のもうひとつの仕事が始まる。
営業時間は調査が入ってない時。人は「探偵食堂」って言ってるよ。
メニューはない。勝手に注文されてもできないものは作らないよってのが俺の営業方針さ。
客が来るかって?
それが結構来るんだよ。
今日のメニューは「雑煮」だ。
去年の最後は年越しそばだったので年初めにはやっぱり雑煮だよね。
我が家の雑煮は岡山県津山出身である父親の実家の味さ。
餅は茹でた丸餅、具はかまぼこ、しいたけ、ほうれん草、牛肉のしぐれ煮、いくら、最後に薄削りの鰹節を乗せ、そこにスルメで出汁をとったしょう油味のつゆをかける。
子供の頃、つゆをかけた時にゆらゆら踊る鰹節を見てよろこんでいたっけ。
それから、雑煮のお供にはたくあん。
「餅で胸やけしたときには大根が効く」と言って、母親が必ず出してくれていた。
この雑煮を母は父から教わり、結婚して以来、そして俺が小学生のときに父と離婚した後も母親が作る雑煮はこれなんだよ。
今回のはそんな我が家の雑煮とは少々違ってしまったんだが、餅は角餅でつゆは鰹だしのしょうゆ味。牛肉はそのつゆで煮たものでなんとか雰囲気を再現したつもりさ。
冬休みに友達がうちに遊びに来た時、母がこの雑煮を友達に振る舞うと具に牛肉やいくらが乗っかってるんでみんなびっくりしていたな。
そんなとき、貧乏なうちだけどこの雑煮は少し俺の自慢だった憶えがある。
*「探偵食堂」は架空の店舗であり、実在しません。